琉球王国時代から最上級の献上品として用いられ、各家庭でも織られてきた芭蕉布。「トンボの羽」と表現されるほど薄くて軽い生地は亜熱帯気候の沖縄にふさわしい肌触りで、清廉な気品を感じさせる織物です。第二次世界大戦後、消滅の危機に直面しましたが、のちに人間国宝となった平良敏子さんの情熱と尽力により復活を果たしました。沖縄の伝統工芸品として揺るぎない価値を生み出した芭蕉布は1974年に国の重要無形文財の指定を受け、「喜如嘉の芭蕉布保存協会」が保持団体として認定されています。大宜味村の喜如嘉集落では、今日も原材料となる糸芭蕉の葉が風に揺れ、地域の人々の思いと技術によって芭蕉布が受け継がれています。
「芭蕉布は糸がすべて。素材がすべてです」。喜如嘉芭蕉布事業協同組合の理事長、平良美恵子さんがそう話すように、23もの製作工程において、織りが占める割合はわずか1%。芭蕉布を作るためにまず原料となる植物「糸芭蕉」の栽培からはじまります。芭蕉布会館の近くにある畑だけでも758坪、畳約1,500枚分の広さで、組合が管理している畑をすべて合わせると2,000坪にも及びます。一本の糸芭蕉が成長するまでにおよそ3年もかかり、その間も葉落としや芯どめと呼ばれる茎の太さを一定にする作業が行われます。秋から冬は収穫の季節。「苧(うー)」と呼ばれる糸芭蕉の繊維は、柔らかさによって4種類に分けられ、それぞれ着物やタペストリーなど適した製品へと生まれ変わります。実際に触らせてもらった貴重な繊維は、柔らかな肌触りとなめらかな艶が印象的でした。繊維を収穫した後は、苧を木灰汁で煮る「苧炊き(うーだき)」、柔らかくなった苧を手作りの竹鋏でしごいて滑らかにする「苧引き(うーびき)」と続きます。不純物が取り除かれた苧を日陰に干し、その後鞠状に丸めていく「チング巻き」を経て、「苧績み(うーうみ)」という糸をつなぐ工程へ入るのです。色も細さも変わらない均一の糸にしていくには、熟練の手技とたしかな目が求められます。職人たちはこの苧績みのなかで、次第に図案を組み立てていきます。芭蕉布会館では、芭蕉布を製作している様子を見学でき、細やかな手仕事を間近で感じることができます。
糸を染める前の代表的な作業に「撚り掛け(よりかけ)」があります。霧吹きで糸を湿らせながら撚りをかけて糸の長さを美しく整えていきます。丁寧に、細心に。職人たちが回す糸車の音が工房内に響きます。もちろん、染色も重要な作業のひとつ。「テーチ(車輪梅)」や「エー(琉球藍)」をはじめ、フクギ、相思樹など、やんばるの自然を映し出す天然染料を用い、人の手で染められます。その後もいくつかの工程を経て、ようやく織りの時を迎えます。職人の手によって、染めた糸がカタン、シャーッという小気味良い音を立てて織られ、かつて植物だったものが輝く糸になり、美しい布へと姿を変えています。喜如嘉の芭蕉布は沖縄を代表する伝統工芸品のひとつですが、気の遠くなるような時間と多くの人の手を経て生み出されています。効率を重視するあまり、めまぐるしい速度で過ぎていく現代社会の対極にあるような、自然と向き合うひたむきできめ細やかな手仕事です。芭蕉布はもちろんのこと、一人ひとりが糸と向き合い、一意専心で臨む姿そのものに「美しい」という思いを抱かずにはいられません。ぜひ「大宜味村立芭蕉布会館」でその一端に触れてみてください。
緑豊かな国頭村森林公園内にある「やんばる森のおもちゃ美術館」は、体験型木育推進ミュージアムです。近年注目をあつめている「木育(もくいく)」とは、子どもから大人まで世代を問わず、自然を大切にする心を育み、大切な木の文化を次世代へつないでいく取り組みのこと。森や木を大きなテーマとして、国頭村を中心とした沖縄島北部・やんばるエリアの自然の魅力を伝えています。靴を脱いで美術館の中へ入ると、木のぬくもりが訪れる人を包み込んでくれます。床材はやんばるの森の70%を占めるというイタジイでできており、よく見ると木目がそれぞれに異なるのが特徴。木の個性を感じるやさしい模様をみつめていると心が和みます。
館内にはさまざまな木のオブジェや玩具が展示されています。実際に見て触れて、香りを確かめたり、重さを感じたり、五感をつかうことで木をもっと身近に感じられるようになります。なかでも、国頭村産のリュウキュウマツでつくったなめらかな木のたまごを敷き詰めた「ヤンバルクイナのたまごプール」は、思わず中に入って、全身でつるつるとした感触を楽しみたくなる存在感。「なめらかな木の質感は肌に触れてもやさしく、小さな子どもでも安心して遊べます」とほほえむスタッフの貝阿弥ひとみさん。硬質で耐久性に優れているリュウキュウマツだからこそ、時を経ても欠けたり擦れたりせずきれいな状態のままの姿を残しているのだそう。それぞれのたまごに浮かび上がる年輪も個性的で、遊びながら木の歴史に思いを馳せることができます。
一際目立つリュウキュウマツのトンネルは、なんと樹齢300年。その歴史から「蔡温松(さいおんまつ)」とも呼ばれており、2012年の大型台風で倒れたマツを用いて大型遊具として再利用しています。そのほかにも、やんばるを代表する10 数個の他樹種で作られたアート作品のような「コダマ」や、クスノキやハマセンダン、オキナワウラジロガシなどで作られた「六角積み木」、かつて首里城に木材を運搬したやんばる船の壁飾りなど、眺めて楽しめるオブジェ、手にとって遊べるおもちゃがいっぱい。遊びながら学べるため、子どもも大人も大満足のミュージアムです。美術館でさまざまな木に触れた後は、ぜひ敷地内の森林公園を散策し、国頭村の自然を肌で感じてみてください。
琉球王国時代から最上級の献上品として用いられ、各家庭でも織られてきた芭蕉布。「トンボの羽」と表現されるほど薄くて軽い生地は亜熱帯気候の沖縄にふさわしい肌触りで、清廉な気品を感じさせる織物です。第二次世界大戦後、消滅の危機に直面しましたが、のちに人間国宝となった平良敏子さんの情熱と尽力により復活を果たしました。
沖縄の伝統工芸品として揺るぎない価値を生み出した芭蕉布は1974年に国の重要無形文財の指定を受け、「喜如嘉の芭蕉布保存協会」が保持団体として認定されています。大宜味村の喜如嘉集落では、今日も原材料となる糸芭蕉の葉が風に揺れ、地域の人々の思いと技術によって芭蕉布が受け継がれています。
「芭蕉布は糸がすべて。素材がすべてです」。喜如嘉芭蕉布事業協同組合の理事長、平良美恵子さんがそう話すように、23もの製作工程において、織りが占める割合はわずか1%。芭蕉布を作るためにまず原料となる植物「糸芭蕉」の栽培からはじまります。
芭蕉布会館の近くにある畑だけでも758坪、畳約1,500枚分の広さで、組合が管理している畑をすべて合わせると2,000坪にも及びます。一本の糸芭蕉が成長するまでにおよそ3年もかかり、その間も葉落としや芯どめと呼ばれる茎の太さを一定にする作業が行われます。秋から冬は収穫の季節。「苧(うー)」と呼ばれる糸芭蕉の繊維は、柔らかさによって4種類に分けられ、それぞれ着物やタペストリーなど適した製品へと生まれ変わります。
実際に触らせてもらった貴重な繊維は、柔らかな肌触りとなめらかな艶が印象的でした。繊維を収穫した後は、苧を木灰汁で煮る「苧炊き(うーだき)」、柔らかくなった苧を手作りの竹鋏でしごいて滑らかにする「苧引き(うーびき)」と続きます。不純物が取り除かれた苧を日陰に干し、その後鞠状に丸めていく「チング巻き」を経て、「苧績み(うーうみ)」という糸をつなぐ工程へ入るのです。色も細さも変わらない均一の糸にしていくには、熟練の手技とたしかな目が求められます。職人たちはこの苧績みのなかで、次第に図案を組み立てていきます。芭蕉布会館では、芭蕉布を製作している様子を見学でき、細やかな手仕事を間近で感じることができます。
糸を染める前の代表的な作業に「撚り掛け(よりかけ)」があります。霧吹きで糸を湿らせながら撚りをかけて糸の長さを美しく整えていきます。丁寧に、細心に。職人たちが回す糸車の音が工房内に響きます。もちろん、染色も重要な作業のひとつ。「テーチ(車輪梅)」や「エー(琉球藍)」をはじめ、フクギ、相思樹など、やんばるの自然を映し出す天然染料を用い、人の手で染められます。その後もいくつかの工程を経て、ようやく織りの時を迎えます。職人の手によって、染めた糸がカタン、シャーッという小気味良い音を立てて織られ、かつて植物だったものが輝く糸になり、美しい布へと姿を変えています。
喜如嘉の芭蕉布は沖縄を代表する伝統工芸品のひとつですが、気の遠くなるような時間と多くの人の手を経て生み出されています。効率を重視するあまり、めまぐるしい速度で過ぎていく現代社会の対極にあるような、自然と向き合うひたむきできめ細やかな手仕事です。芭蕉布はもちろんのこと、一人ひとりが糸と向き合い、一意専心で臨む姿そのものに「美しい」という思いを抱かずにはいられません。ぜひ「大宜味村立芭蕉布会館」でその一端に触れてみてください。
緑豊かな国頭村森林公園内にある「やんばる森のおもちゃ美術館」は、体験型木育推進ミュージアムです。近年注目をあつめている「木育(もくいく)」とは、子どもから大人まで世代を問わず、自然を大切にする心を育み、大切な木の文化を次世代へつないでいく取り組みのこと。森や木を大きなテーマとして、国頭村を中心とした沖縄島北部・やんばるエリアの自然の魅力を伝えています。靴を脱いで美術館の中へ入ると、木のぬくもりが訪れる人を包み込んでくれます。床材はやんばるの森の70%を占めるというイタジイでできており、よく見ると木目がそれぞれに異なるのが特徴。木の個性を感じるやさしい模様をみつめていると心が和みます。
館内にはさまざまな木のオブジェや玩具が展示されています。実際に見て触れて、香りを確かめたり、重さを感じたり、五感をつかうことで木をもっと身近に感じられるようになります。なかでも、国頭村産のリュウキュウマツでつくったなめらかな木のたまごを敷き詰めた「ヤンバルクイナのたまごプール」は、思わず中に入って、全身でつるつるとした感触を楽しみたくなる存在感。「なめらかな木の質感は肌に触れてもやさしく、小さな子どもでも安心して遊べます」とほほえむスタッフの貝阿弥ひとみさん。
硬質で耐久性に優れているリュウキュウマツだからこそ、時を経ても欠けたり擦れたりせずきれいな状態のままの姿を残しているのだそう。それぞれのたまごに浮かび上がる年輪も個性的で、遊びながら木の歴史に思いを馳せることができます。
一際目立つリュウキュウマツのトンネルは、なんと樹齢300年。その歴史から「蔡温松(さいおんまつ)」とも呼ばれており、2012年の大型台風で倒れたマツを用いて大型遊具として再利用しています。
そのほかにも、やんばるを代表する10数個の他樹種で作られたアート作品のような「コダマ」や、クスノキやハマセンダン、オキナワウラジロガシなどで作られた「六角積み木」、かつて首里城に木材を運搬したやんばる船の壁飾りなど、眺めて楽しめるオブジェ、手にとって遊べるおもちゃがいっぱい。遊びながら学べるため、子どもも大人も大満足のミュージアムです。美術館でさまざまな木に触れた後は、ぜひ敷地内の森林公園を散策し、国頭村の自然を肌で感じてみてください。