奄美群島のなかでも、徳之島のみで育まれてきた伝統文化財ふり茶。戦後、島民たちがみなで助け合って暮らしてきたなか、少しでも日々の彩りを取り戻すために始まったとされ、農作業の合間や家族の団らん、近所の友人が集まり語り合うときにふるまわれる“親睦のお茶”として親しまれてきました。お腹を満たすために米や麦を炒ったものを混ぜたお茶でしたが、現在では形を変え、玄米茶を泡立てたものが嗜まれています。
茶道のように茶道具や作法などにこだわることもなく、徳之島のふり茶は自由。「山や海など場所を問わず、木陰とお茶さえあればどこでも楽しめるんですよ。つけ合わせも、お砂糖や漬物などそのときにあるものを持ってきます」と、普及活動に取り組んでいる平陽子さんは語ります。平さんと地元の友達2人で運営している『カフェまえざと』では、丁寧なレクチャーを受けながら、ふり茶を体験することができます。手桶に注いだ玄米茶を竹製の茶せんで細やかなふんわりとした泡が立つまで泡立て、手桶を揺らしながら泡とともになみなみ湯飲みへ注がれるふり茶は、部屋中に漂うほど香り高くまろやかな逸品。平さんのように綺麗に注ぐにはコツが必要かもしれませんが、茶道とは一味違う趣を楽しむことができます。
樹齢約300年の巨木なガジュマルの木がそびえたつ庭先を観ながら、手作りのシマ料理を堪能するのも格別です。貝殻を器に、桃を混ぜ込んだ自家製寒天、ピーナッツ豆腐、紅茶で煮たスモモ、サツマイモを蒸してはったい粉や黒糖を混ぜて作る郷土菓子インギュムィなど、おもてなしの心がこもった料理がずらりと並びます。阿権(あごん)集落に住む子どもたちには必ず体験させているほど大切に紡がれている“ふり茶文化”を体験すれば、本来の島人たちの日常を感じることができるでしょう。
ランチをするお店で是非訪れたい場所は、北東部の金見集落にある『ジビエカフェとうぐら』。この集落は、自然環境に恵まれ、集落全体が国立公園に指定されています。目が覚めるような瑠璃色のオーシャンビューを眺めながら味わえる看板メニュー「あまちゃん定食」は格別の一言。大きなワンプレートに、南西諸島にのみ生息するリュウキュウイノシシを調理したシシカツと、ドラゴンフルーツの皮とつぼみの天ぷら、落花生の豆ご飯、パパイヤの漬物など旬の素材を使った“森のごちそう”がたっぷりと盛り付けられ、見た目や味とともにボリューム満点な定食を堪能できます。
害獣とされるけど、丁寧に調理すれば美味しいシシニク。奄美群島認定エコツアーガイドであり、金見集落の歴史や文化に精通するオーナーの元田浩三さんは、猟師のみが消費していた“もったいない”状況から多くの人が味わえる環境を目指して、地元のあまちゃん(お母さん)たちと協力しながらメニューを開発。「お店をきっかけに、あちこちからたくさんの人が金見集落へ足を運ぶようになってほしい」と願う通り、オープンから約4年経った今、地元の人々だけでなく観光客もひっきりなしに訪れるほど賑わいを見せています。
金見集落から車で10分ほどの場所にある『島料理 畦』では、店主イチオシの郷土料理「油ソーメンセット」がオススメです。お店や家庭で具材は変わるそうですが、ここではニラやスパムが中心のオーソドックスな逸品が楽しめます。柔らかく茹で上げたそうめんが、油とイリコ出汁にしっかりと絡み、アクセントの紅しょうががクセになる味わいです。「そうめんはさっぱりとした料理」という概念が覆されるほど濃厚なコクは、言い換えるなら南国で生まれたペペロンチーノのようで、世代を超えて島人たちに親しまれています。せわしない日々からそっと離れ、まるで実家に帰ってきたかの如くのどかな雰囲気が流れる地元の食堂は、飾られていない食文化を体感できる場所です。
ギネスブックでかつて長寿世界一と認定された2人の人物が生まれ育ち、また子宝の島としても知られる徳之島は、自然に寄り添った食文化が今も根付いています。地産地消でまかなわれる海の幸や山の幸はもちろんのこと、島全体が花崗岩のほか石灰岩などで形成されているため地下には鍾乳洞が広がり、カルシウムを豊富に含む硬水が飲み水として使用されています。日々の暮らしで、ごく自然に栄養たっぷりな食事ができる環境に滞在することで、改めて“健康”の意味を捉え直すきっかけになります。
島内の家庭ごとに脈々と受け継がれる島ごはんの中でも、島の西部にある伊仙町犬田布集落の昔ながらの民家を再現した東屋“やどぅり”では、健康な生活を根底で支え続けてきた島ごはんを存分に堪能できます。手作りのピーナッツ豆腐や近海で獲れるアオサ、長命草の天ぷらなどを前菜に、アーユー(赤魚)の煮付け、豚足を黒糖と醬油でじっくり柔らかく煮たワンフニ、さらには豚味噌が効いた玉子おにぎりなど多彩な郷土料理が提供されます。デザートには、餅粉と黒糖を混ぜて作る郷土菓子の舟焼きをはじめ、採れたてのパッションフルーツやグアバなど南国らしいフルーツも味わえます。
料理を手掛ける松岡郁代さん曰く、味の決め手は『ましゅ屋』の塩。盛夏に、近くの犬田布海岸の“潮溜まり”で海水を汲み集め、天日で塩分濃度を高めてからじっくり釜で炊きあげ完成させるこの塩は、スーパーで見かけるような精製された塩よりキメが粗く、まろやかな味わいが特徴です。ゆったりとシマ時間の流れる“やどぅり”で、素材本来の旨みを活かすクラシックな塩と、カラダにいい食材をふんだんに使った島ごはんを味わえば、徳之島で紡がれてきた豊かな食卓風景が鮮明に浮かび上がるでしょう。
日本における珈琲栽培の教科書はほとんど存在しません。コーヒー栽培は、エチオピア、ブラジルなどを筆頭に、コーヒーベルトと呼ばれる赤道を中心とした亜熱帯・熱帯地方が栽培に適していることから日本では発展しにくく、はじまりこそ明治期とされていますが、先駆者たちでさえ今もトライ&エラーを繰り返しながら道を切り拓いています。生産者のたゆまぬ努力によって少しずつ国内産のコーヒー豆の存在感が高まっているなか、実は徳之島の伊仙町でも「国産珈琲豆の栽培」が産地化されつつあります。
「まだまだ実験中ですが、16年続けてやっと自分なりの活路が見えてきました。自家栽培で採れた豆で淹れる一杯に勝る満足度はないと実感していますね」。そう語るのは、伊仙町で20種類ほどの国産珈琲豆を栽培する『宮出珈琲園』の代表・宮出博史さん。はじめに育てていた2500本のコーヒーの樹が台風被害で全滅する困難も乗り越え、なんと初収穫までに11年を要したそう。出来上がる豆は寒暖差のない日本だと酸が少なく優しい風味になるため、発酵技術を駆使し、個性が際立つ逸品に昇華しようと日々研究を重ねています。植えてから5年ほどかけて赤や黄色に色づいた豆を、一粒ずつ手摘みすることからスタートするというのだから、その胆力に驚かされます。
「セミフォレスト」と表現する自家農園は、日差しは考慮するけれどほとんど手を加えず、植物同士が支え合う小さな森のような環境です。安定供給が直近の課題ではあるものの、人と自然が共生した環境で丁寧に作り出される一杯は、宮出さんの想いがギュッと詰まっているのはもちろんのこと、徳之島がもたらす自然の恩恵でもあります。さらに『宮出珈琲園』では珈琲の実だけでなく、誰も着目してこなかった葉や花で発酵茶を、果皮でカスカラティーを独自に開発しています。収穫やお茶作りに参加できる体験プロジェクトに集うバリスタや珈琲農家を志す若者たち、そして地域の方と協力しながら、希少な国産珈琲文化を築こうとする姿がここにあります。
奄美群島のなかでも、徳之島のみで育まれてきた伝統文化財ふり茶。戦後、島民たちがみなで助け合って暮らしてきたなか、少しでも日々の彩りを取り戻すために始まったとされ、農作業の合間や家族の団らん、近所の友人が集まり語り合うときにふるまわれる“親睦のお茶”として親しまれてきました。お腹を満たすために米や麦を炒ったものを混ぜたお茶でしたが、現在では形を変え、玄米茶を泡立てたものが嗜まれています。
茶道のように茶道具や作法などにこだわることもなく、徳之島のふり茶は自由。「山や海など場所を問わず、木陰とお茶さえあればどこでも楽しめるんですよ。つけ合わせも、お砂糖や漬物などそのときにあるものを持ってきます」と、普及活動に取り組んでいる平陽子さんは語ります。平さんと地元の友達2人で運営している『カフェまえざと』では、丁寧なレクチャーを受けながら、ふり茶を体験することができます。
手桶に注いだ玄米茶を竹製の茶せんで細やかなふんわりとした泡が立つまで泡立て、手桶を揺らしながら泡とともになみなみ湯飲みへ注がれるふり茶は、部屋中に漂うほど香り高くまろやかな逸品。平さんのように綺麗に注ぐにはコツが必要かもしれませんが、茶道とは一味違う趣を楽しむことができます。
樹齢約300年の巨木なガジュマルの木がそびえたつ庭先を観ながら、手作りのシマ料理を堪能するのも格別です。貝殻を器に、桃を混ぜ込んだ自家製寒天、ピーナッツ豆腐、紅茶で煮たスモモ、サツマイモを蒸してはったい粉や黒糖を混ぜて作る郷土菓子インギュムィなど、おもてなしの心がこもった料理がずらりと並びます。阿権(あごん)集落に住む子どもたちには必ず体験させているほど大切に紡がれている“ふり茶文化”を体験すれば、本来の島人たちの日常を感じることができるでしょう。
ランチをするお店で是非訪れたい場所は、北東部の金見集落にある『ジビエカフェとうぐら』。この集落は、自然環境に恵まれ、集落全体が国立公園に指定されています。目が覚めるような瑠璃色のオーシャンビューを眺めながら味わえる看板メニュー「あまちゃん定食」は格別の一言。大きなワンプレートに、南西諸島にのみ生息するリュウキュウイノシシを調理したシシカツと、ドラゴンフルーツの皮とつぼみの天ぷら、落花生の豆ご飯、パパイヤの漬物など旬の素材を使った“森のごちそう”がたっぷりと盛り付けられ、見た目や味とともにボリューム満点な定食を堪能できます。
害獣とされるけど、丁寧に調理すれば美味しいシシニク。奄美群島認定エコツアーガイドであり、金見集落の歴史や文化に精通するオーナーの元田浩三さんは、猟師のみが消費していた“もったいない”状況から多くの人が味わえる環境を目指して、地元のあまちゃん(お母さん)たちと協力しながらメニューを開発。「お店をきっかけに、あちこちからたくさんの人が金見集落へ足を運ぶようになってほしい」と願う通り、オープンから約4年経った今、地元の人々だけでなく観光客もひっきりなしに訪れるほど賑わいを見せています。
金見集落から車で10分ほどの場所にある『島料理畦』では、店主イチオシの郷土料理「油ソーメンセット」がオススメです。お店や家庭で具材は変わるそうですが、ここではニラやスパムが中心のオーソドックスな逸品が楽しめます。柔らかく茹で上げたそうめんが、油とイリコ出汁にしっかりと絡み、アクセントの紅しょうががクセになる味わいです。「そうめんはさっぱりとした料理」という概念が覆されるほど濃厚なコクは、言い換えるなら南国で生まれたペペロンチーノのようで、世代を超えて島人たちに親しまれています。せわしない日々からそっと離れ、まるで実家に帰ってきたかの如くのどかな雰囲気が流れる地元の食堂は、飾られていない食文化を体感できる場所です。
ギネスブックでかつて長寿世界一と認定された2人の人物が生まれ育ち、また子宝の島としても知られる徳之島は、自然に寄り添った食文化が今も根付いています。地産地消でまかなわれる海の幸や山の幸はもちろんのこと、島全体が花崗岩のほか石灰岩などで形成されているため地下には鍾乳洞が広がり、カルシウムを豊富に含む硬水が飲み水として使用されています。日々の暮らしで、ごく自然に栄養たっぷりな食事ができる環境に滞在することで、改めて“健康”の意味を捉え直すきっかけになります。
島内の家庭ごとに脈々と受け継がれる島ごはんの中でも、島の西部にある伊仙町犬田布集落の昔ながらの民家を再現した東屋“やどぅり”では、健康な生活を根底で支え続けてきた島ごはんを存分に堪能できます。手作りのピーナッツ豆腐や近海で獲れるアオサ、長命草の天ぷらなどを前菜に、アーユー(赤魚)の煮付け、豚足を黒糖と醬油でじっくり柔らかく煮たワンフニ、さらには豚味噌が効いた玉子おにぎりなど多彩な郷土料理が提供されます。デザートには、餅粉と黒糖を混ぜて作る郷土菓子の舟焼きをはじめ、採れたてのパッションフルーツやグアバなど南国らしいフルーツも味わえます。
農料理を手掛ける松岡郁代さん曰く、味の決め手は『ましゅ屋』の塩。盛夏に、近くの犬田布海岸の“潮溜まり”で海水を汲み集め、天日で塩分濃度を高めてからじっくり釜で炊きあげ完成させるこの塩は、スーパーで見かけるような精製された塩よりキメが粗く、まろやかな味わいが特徴です。ゆったりとシマ時間の流れる“やどぅり”で、素材本来の旨みを活かすクラシックな塩と、カラダにいい食材をふんだんに使った島ごはんを味わえば、徳之島で紡がれてきた豊かな食卓風景が鮮明に浮かび上がるでしょう。
日本における珈琲栽培の教科書はほとんど存在しません。コーヒー栽培は、エチオピア、ブラジルなどを筆頭に、コーヒーベルトと呼ばれる赤道を中心とした亜熱帯・熱帯地方が栽培に適していることから日本では発展しにくく、はじまりこそ明治期とされていますが、先駆者たちでさえ今もトライ&エラーを繰り返しながら道を切り拓いています。生産者のたゆまぬ努力によって少しずつ国内産のコーヒー豆の存在感が高まっているなか、実は徳之島の伊仙町でも「国産珈琲豆の栽培」が産地化されつつあります。
「まだまだ実験中ですが、16年続けてやっと自分なりの活路が見えてきました。自家栽培で採れた豆で淹れる一杯に勝る満足度はないと実感していますね」。そう語るのは、伊仙町で20種類ほどの国産珈琲豆を栽培する『宮出珈琲園』の代表・宮出博史さん。はじめに育てていた2500本のコーヒーの樹が台風被害で全滅する困難も乗り越え、なんと初収穫までに11年を要したそう。
出来上がる豆は寒暖差のない日本だと酸が少なく優しい風味になるため、発酵技術を駆使し、個性が際立つ逸品に昇華しようと日々研究を重ねています。植えてから5年ほどかけて赤や黄色に色づいた豆を、一粒ずつ手摘みすることからスタートするというのだから、その胆力に驚かされます。
「セミフォレスト」と表現する自家農園は、日差しは考慮するけれどほとんど手を加えず、植物同士が支え合う小さな森のような環境です。安定供給が直近の課題ではあるものの、人と自然が共生した環境で丁寧に作り出される一杯は、宮出さんの想いがギュッと詰まっているのはもちろんのこと、徳之島がもたらす自然の恩恵でもあります。さらに『宮出珈琲園』では珈琲の実だけでなく、誰も着目してこなかった葉や花で発酵茶を、果皮でカスカラティーを独自に開発しています。収穫やお茶作りに参加できる体験プロジェクトに集うバリスタや珈琲農家を志す若者たち、そして地域の方と協力しながら、希少な国産珈琲文化を築こうとする姿がここにあります。