「人間もまた生態系のごく一部に過ぎない」と、西表島の自然を40年近く見つめ続けてきた森本孝房さんは言います。森から始まった流れが川となり、多くの生きものを育みながらサンゴ礁の海へと注ぐ。西表島は命の繋がりがよくわかる、生命の息吹に満ちた島なのです。
森本 孝房さん(もりもとたかふさ・西表島バナナハウス代表)
http://www.iriomotenature.com/
1956年、兵庫県太子町生まれ。島の豊かな自然に魅了され、21才の時に西表島へ移住。自然観察のガイド業だけでなく、今では一般的になったカヌーを島内で初めてツアーに取り入れた先駆者的な存在。生きもの全般に造詣が深く、これまでに培われた経験を請われ、研究者やメディア関係者から調査や取材の協力依頼が絶えない。カヌーによるマングローブ林や干潟の観察、トレッキングのガイドや自然解説など、体験を通して西表島の魅力を発信している。
夜の森歩きは餌を探して活発に動き回る生きものや眠っている姿など、生きものの「素の表情」が観察できる可能性が高く、昼間とは違った発見があります。島内の自然を知り尽くしたガイドだからこそ、見ることができる世界がある。一年を通して光るホタルが観察できるのも西表島の魅力です。
巨木には「精霊」が宿っていると、森本さんは言います。人間によって利用価値がない樹木であっても、イリオモテヤマネコをはじめとする野生生物の住処となったり、餌を与えてくれる大切な場所になっているのです。西表島に暮らす人はそのような場所を守り、すべての生きものが将来に渡って暮らしやすい島を目指しています。
森本さんは西表島の自然から「生きものに無駄なものはない」ことを学んだと言います。山に降った雨は森に恵みを与え、養分を含んだ川がマングローブ林から海へと注ぎ、干潟や森に暮らす生きものを支えています。カヌーでピナイサーラの滝へ向かうツアーでは人間を含めた自然のつながりがわかりやすく観察できるため、命の循環を学ぶ理想的なフィールドともいえます。
イリオモテヤマネコが車道で事故に遭うケースが後を絶ちません。2018年は昼夜を問わず、7件の事故が発生。森本さんは事故を防ぐために、島を訪れた方への協力が必要不可欠だと考えています。夜行性の生きものであっても日中に活動することは珍しいことではありません。カーブ手前では減速し、気持ちに余裕を持って走るだけで防げる事故があります。
西表島に暮らしはじめて40年になる森本さんですが、自然は日々変化し、いまも「まだまだ知らないことばかり」だと言います。西表島を訪れた方が島を離れても、身の回りにある環境に関心を持ち続けてくれることが、西表島で様々なことを学んだ森本さんの願いです。